高島屋の入社式 ― だからニュースは難しい!?

きのうのテレビ、けさの朝刊でいろんな人が目にしたであろう記事。
高島屋の入社式で新入社員がカジュアルな服装だった」ということで
見た目にもヒキがある(画になりやすい)し、日曜日だったし、
高島屋の広報さんはうまくやったなあと感じました。

・・・ところで。
「なんでこの人らはこんなことしてんねん?そこを書いてあげなアカンのと違うか?」

昔デスクに原稿を出して、よくこんな小言を言われたものです。
私が気になったのも「なぜ高島屋はこんな入社式を仕立てたのか?」でした。
そこで各社のネット記事を横並び!(どこかのワイドショーのようですが)
まずは内容をシンプルに知りたい方は
ストレート記事の老舗「時事通信」でご確認ください。

時事.com「高島屋、カジュアルな装いで入社式」
・・・同社はグループの新入社員79人にスーツ以外の自由な服装での出席を初めて要請・・・

では、各社の「書きっぷり」を比べてみましょう。

<グループA>
NHK「高島屋がスーツ禁止の入社式」
・・・新入社員には常識にとらわれず個性を発揮してもらいたいと、入社式でのスーツの着用を禁じ、新入社員はジャケットやセーターなどを着て式に臨みました。・・・

FNNニュース「新年度がスタート ローソンなどが入社式」
・・・新入社員が個性を発揮できるよう、新人全員にスーツの着用を認めず、カジュアルな服装で式に参加させるという、ユニークな試みを行った。・・・

SANSPO.COM(サンスポ)「高島屋が入社式、カジュアル服で出席」
・・・「若い感性で老舗の旧弊を打ち破ってほしい」との狙いから、79人の新入社員と、役員らがともにカジュアルな服装で出席。・・・

●常識にとらわれず個性を発揮してもらいたい
●若い感性で老舗の旧弊を打ち破ってほしい
●新入社員が個性を発揮できるよう

どれも「ふむふむ」とうなづきたくなる表現ではありますが、実はオカシイ。
常識にとらわれず個性を発揮するのであれば、入社式以外の場でもスーツ禁止でいくの?
若い感性で旧弊を、というが、入社式のルールを決めているのはきっと人事のオジサン。
新入社員が個性を発揮できるように・・・ん?それって服装だけの問題なの?
(こういうふわっとした原稿がミョーに気になるのが私の悪いクセですが)

もう少し探してみると、ちゃんと理由を併記している記事もありました。

<グループB>
SankeiBiz「フレッシュ入社式 高島屋は正装“禁止”」
・・・カジュアル入社式は、式典後に行われる役員と新入社員との意見交換で、新入社員に率直な発言を促すのが狙い・・・

MSN産経ニュース「181年の歴史で初?!高島屋がカジュアル入社式」
・・・入社式で実施する役員と新入社員とのディスカッションで率直な意見交換が行われるようにするのが目的・・・

YOMIURI ONLINE(読売新聞)「スーツ着用禁止の入社式、その狙いは…」
・・・「スーツ禁止」は、入社式後の意見交換会で新入社員の緊張を和らげる狙いで、初めて実施した。・・・

●役員と新入社員との意見交換で、新入社員に率直な発言を促すのが狙い
●役員と新入社員とのディスカッションで率直な意見交換が行われるようにするのが目的
意見交換会で新入社員の緊張を和らげる狙いで、初めて実施

なるほど。表現は少しずつ違うけれど「意見交換を盛り上げるため」にやったのですね。
・・・でもやっぱりつながっていません。
「スーツじゃない方が議論が盛り上がる」という説は決して論理的ではありません。
百歩譲って昨年の入社式が終わった後の反省会で
「なんか議論が盛り上がらなかったなー・・・よし来年はスーツやめよう!」
という会話があったのかと思いましたが、よく読むと意見交換そのものが初めての試み。

これは広報担当者・採用担当者の「うまい文脈づくり≒こじつけ」の勝利と見るべきで
さすがは業界最大手のブランド力!というのが私なりの結論です。
もしかして入社式が日曜日=非勤務日だったのがきっかけでは?とも推測できますので、
来年同じことを高島屋がやるかどうか・・・これもある意味注目ですね。

<番外>
日本経済新聞「高島屋社長「新たな発想で提案を」流通大手など入社式」
・・・鈴木弘治社長は「変化に対応できるよう、新しい発想で積極的に提案してほしい」と挨拶。その後、初の試みとして役員と新入社員が今後の事業展開などを議論した。・・・

テクニックとしてはこういう書き方がいちばん上手だと思います。
因果関係が成立しているようにも読めるけど、直接的な結びつけ・こじつけは避けている。
こちらもさすがはビジネス記事のプロ!だと感じました。